秩父・小鹿野町の冬の風物詩として、河原沢地区に広がる「尾ノ内氷柱」は、その美しさとダイナミックな姿勢で地元や観光客に親しまれています。
これは人工的に作り出された氷柱であり、その誕生には独自のストーリーが紡がれています。
寒冷な気温と湧き水が絶妙に交わり、尾ノ内氷柱の舞台である河原沢地区は、冬季になると特有の氷柱が形成される環境を提供しています。その美しい氷柱は、まるで氷の芸術品のように見え、訪れる人々を魅了しています。
この風物詩の裏には、地元の人々が懸命に氷柱の形成をサポートしているエピソードが隠れています。取材を通じて明らかになった尾ノ内氷柱の誕生秘話には、地元コミュニティの協力と努力が欠かせません。氷柱を造り上げるための手作業や技術、そして自然との共生が、この冬の景色を彩り豊かなものにしています。
訪れる者には、尾ノ内氷柱が生まれるまでのプロセスや地元の人々の情熱的な取り組みに触れる機会が広がっています。氷柱が一つ一つの瞬間を物語り、冬の小鹿野町を特別な場所に変えています。
尾ノ内氷柱が誕生するまで
平成19年のある朝、西秩父商工会青年部三田川支部のメンバーが、うっかり夜に忘れた散水が美しく凍結しているのを発見しました。この風景に着想を得て、「冬の自然にこんな美しい光景を生み出せないか?」というアイディアが尾ノ内氷柱の誕生へと繋がったそうです。
翌21年の冬、西秩父商工会青年部メンバーは、最初に河原沢地区日向沢で氷柱を人工的に作り出す実験を行いました。その後、尾ノ内渓谷に場所を移し「氷柱プロジェクト」を本格始動をさせたのでした。
最初はホースやポンプを自前で手に入れ、手探りで氷柱づくりに挑戦しましたが、なかなかダイナミックな氷柱はできません。地元の人たちが見守る中で、取水方法のアドバイスや協力があり、プロジェクトは徐々に進展していきました。
この年は「試験段階」でしたが、地元新聞の地域版に掲載され、一気に見学者が8000人と増加しました。公式発表前であったにもかかわらず、「この機会を活かし、地域の魅力を引き出す事業を展開しよう」として、23年には「尾ノ内氷柱実行委員会」が発足されたのです。今では、秩父や小鹿野を代表する観光スポットとなっています。
尾ノ内氷柱の舞台裏 夏の準備から冬の輝きまで
1月から2月下旬にかけて輝く尾ノ内氷柱。しかし、その美しい舞台裏は前年の夏から始まります。夏から始まる準備作業では、実行委員会メンバーや地元住民が協力し、沢のゴミを撤去し、氷柱のもとになるホースの位置を確認しながら、冬の輝きを築くための準備を進めます。秋に入ると、沢の清掃が2日おきに行われ、真冬の氷柱期間が終わるまで続くそうです。
氷柱創りの舞台裏: フィルターから圧力管理まで
冬の開催期間が近づくと、いよいよ氷柱づくりの準備が始まります。
特に水の取り口周辺では、慎重な作業が行われます。
ダイナミックな氷柱を生み出すためには、「散水」が肝心なのだそうです。
同実行委員会メンバーである強谷武夫さんによれば、「ホースにゴミが詰まるとうまく散水できないので、水の取り口から散水口まで4カ所にフィルターを設置しました」とのこと。
初期の段階ではゴミの詰まりにより散水が阻まれ、それを乗り越えるため、令和元年からフィルターの設置が始まったと語ります。
ホースは沢を挟んで左右に配置され、吊り橋の周りと滝の奥に向けて散水するホースに分かれています。ホースの位置を確認し、しっかりと圧力をかけて散水できるようにするため、慎重な作業が欠かせません。
氷柱創りの舞台裏には、技術と手間ひまかかった工夫が隠れているのです。
多くの人達の協力のもと出来上がる尾ノ内氷柱!
このような作業には、尾ノ内氷柱実行委員会メンバーだけでなく、同実行委員会の女性部や、地域活性ボランティア組織である「よってがっせー委員会」など、さまざまな人々が協力しています。氷柱の創造に携わるだけでなく、地域への貢献やコミュニティの結束を深めるため、幅広い層が力を合わせています。
お昼の時間には、女性部が手作りした美味しい食事が振る舞われ、作業に参加する皆が一堂に会して交流のひとときを楽しんでいます。ここでの食事は、単なるエネルギー補給だけでなく、地域の人々が協力し合いながら築き上げてきた絆や友情を深める場となっています。
これらの取り組みは、氷柱づくりの技術や手順だけでなく、地域社会全体を巻き込んで成り立っています。尾ノ内氷柱が街を彩り、訪れる人々に感動を与えるのは、さまざまな人が協力しあい、心を一つにしているからこそ出来るのです。
尾ノ内氷柱の美しさを引き立てるエコフレンドリーなライトアップ
「尾ノ内氷柱ecoライトアップ」は、尾ノ内氷柱の開催期間中土・日曜日に行われる、マイクロ水力発電による環境に優しいライトアップです。この発電方式は一般河川や沢の水をダムに溜めずに直接取水し、エコフレンドリーな発電を実現します。
初めてのライトアップの試みは、平成23年に小鹿野町所有の電気自動車(EV車)2台を借りて、LEDライトアップを実施したことからスタートしました。
マイクロ水力発電に注目した実行委員会の北孝行会長は、長野県天竜市での成功例から「沢の水でもできる」と確信しました。
尾ノ内氷柱では「尾ノ内沢」の上流から水を吸い上げ、渓谷を進みながらホースで取水タンクまで水を引き込み、導入管を通じて発電小屋まで水を運びます。
このマイクロ水力発電を利用したライトアップは、令和3年1月に工事が完了し、初めての点灯式が同月30日に行われました。
地元の人や観光客の笑顔がみたい!多くの仲間で出来上がる氷の芸術
尾ノ内氷柱は、尾ノ内氷柱実行委員会や地元ボランティアなど多くの協力で開催される、小鹿野町の冬季限定のイベントです。
北会長は「秩父の自然を生かしたおもてなしを楽しんでいただけたら嬉しいですね」と話していました。
天候状況により開催期間が変更となる場合がありますので、詳しくは西秩父商工会ホームページをご確認ください。